勉強会「レジオネラ問題を考える」タイトル

日 時: 2003年4月12日(土) 15:45-17:15
会 場: 伊豆・祢宜ノ畑温泉 「やまびこ荘」(日本秘湯に入る会 第6回総会会場)
ゲスト: 古畑勝則氏(麻布大学 環境保健学部 助教授)


近年、温泉における「レジオネラ属菌」の事故が相次いでいます。
そこで、「日本秘湯に入る会」では2003年の第6回総会の特別企画として勉強会を開催しました。ゲストには、レジオネラの研究に早くから取り組み、レジオネラ対策の第一線で活躍なさっている古畑勝則氏をお招きしました。古畑先生は難しい問題を分かりやすく解説してくださり、約80名が熱心に耳を傾けました。
会員以外の方々にもレジオネラ属菌のことを知っていただくため、古畑先生の許可をいただき、勉強会の内容をホームページで公開します。


文責・資料作成:日本秘湯に入る会 運営グループ

※レジオネラは正確には「レジオネラ属菌」といいますが、レポートでは「レジオネラ」に統一させていただきます



司会: 今回は総会の特別編として、「レジオネラ問題を考える」という勉強会を企画しました。
その背景としては、レジオネラによる事故が増えてきていて、会員専用掲示板でもレジオネラに関する話題が多くなってきています。その中で、私たちはどのように温泉と向き合って、身の安全を守っていけばよいのか、考えていきたいと思います。
今日は、レジオネラについて、麻布大学環境保健学部の古畑先生にお話をしていただきます。
では、古畑先生、よろしくお願いします。
 
古畑: 私は少し前まで、東京都の衛生の研究機関にいて、行政の立場でものを言っていましたが、今は大学の立場で、好き勝手なことを言わせていただいています。今日も、私見を述べさせていただくこととなると思います。
レジオネラは最近、話題になっていますが、今後みなさんが「実際どうするのか」という判断は、みなさんのご判断にお願いするしかないというのが正直なところです。
みなさんがどうしたらよいのか、お考えになるための判断の材料として、レジオネラについてできるだけ紹介していきたいと思います。
 
司会: 今日の勉強会に先立って、会員のみなさんから事前に質問をいただきました。その質問に沿って、お答えいただく形で進めさせていただきます。
 


以下、司会はQ: ,古畑先生はA:のアイコンです。古畑先生、あまり似てなくてすみません。(^^;

どこにでもいるレジオネラ菌
 
Q: 最近、レジオネラという言葉をよく耳にしますが、どれくらい前から存在が知られていたのでしょうか。

A:

歴史的な話に触れると長くなるのですが、私はレジオネラというものと、20数年付き合っています。1980年前後の話になりますが、その当時は「レジオネラ」という言葉は知られていませんでした。ところが、90年代、特に90年代後半から2000年になって、いわゆるレジオネラの事故が多発する状態となりました。
最初の事故は70年代となっていますが、実際にはそれ以前に、菌としては存在していたと思います。
 
Q: 90年代になってから、レジオネラ事故の報告が急激に増えています。それには理由があるのでしょうか?(→資料:主なレジオネラ事故)
A: そうですね。以前は全くなかったのかというと、そうではなく、実際には「よく分からなかった」のではないでしょうか。80年代には「レジオネラ感染」とは診断されなかったという背景があると思われます。
 
Q: レジオネラの正体について教えていただきたいのですが、レジオネラは、どのようなプロフィールを持っている菌なのでしょう?
A: この菌の研究の歴史は20数年しかありません。みなさんがよくご存知の大腸菌などの菌はずっと長い歴史がありますから、レジオネラは非常に新しい菌と言えます。まだまだ細かなことまでわからない点があるのです。

まず、レジオネラというのは、微生物の中で、「細菌(バクテリア)」というグループに入ります。日常生活の中では、目で見ることはできないくらい小さな生き物です。
資料に写真がありますが、細菌と呼ばれる微生物の中には、丸い形をした「球菌(きゅうきん)」と、細長い形をした「桿菌(かんきん)」があります。 レジオネラは桿菌で、ソーセージのような形をしています。(→写真)

微生物の中には、「細菌」の他に「原生動物」と呼ばれるものがあります。みなさんも聞いたことのあるアメーバやゾウリムシなどが「原生動物」です。「細菌」よりも少し大型のものですが、普通「原生動物」は「細菌」をエサにします。でも、レジオネラという「細菌」は、そうした「原生動物」の中で死なないんです。アメーバはエサだと思ってレジオネラを食べますが、レジオネラはアメーバの中でどんどん増えて、アメーバの方が壊れて死んでしまうんです。自然界ではそのような関係にあります。難しい言葉では、それを「通性細胞内増殖性」と呼びます。
これが、レジオネラが「やっかいである」と言われる性質の一つです。

もともと、レジオネラは土壌など自然界にいるといわれています。もちろん、自然の水、池、川原にもいるといわれています。そのような自然環境では他の微生物もたくさんいるので、バランスが取れていて、ある特定の種だけが爆発的に増えるということは滅多にありません。
しかし、それが人に身近な水環境の中になると、数的、種類的なバランスが崩れてしまいます。それが問題になるところです。
そしてレジオネラは、水の中では非常に長生きします。1年、2年と、年単位で生きていきます。
つまり、「レジオネラはどこにでもいる菌」だとご理解いただければいいと思います。
 
Q: 温泉の湯加減は、レジオネラが生きるのに適しているのでしょうか?
A: 普通の水環境であれば、レジオネラだけが単独で増えるということは、あまりありません。
なぜ温泉だけで増えるのかというと、レジオネラ以外の微生物、特にアメーバなどが温泉水の中で増えることによって、レジオネラも増えるということになるわけです。
 
Q: レジオネラは、「バイオフィルム」の中でよく育つと聞きますが、「バイオフィルム」とは何ですか?
A: 「微生物膜」と言って、いろいろな微生物の集まりです。研究分野が違うと、「スライム」とも呼ばれ、原生動物やカビなども含んでいます。
通常、水の中で浮遊するものではなく、水に接する固体に付着するものです。つまり、お風呂の内側、下側、洗い場などですね。
そういう物質の部分に微生物の集まりができて、増殖していく結果、いろいろな物質ができてきます。その中に「多糖類」という物質があって、いわゆる、ネバネバ、ぬるぬるした性質を持っています。そのため「バイオフィルム」は、「ぬめり」などと呼ばれます。手で触れて“ぬるぬるしているな”と思うところには、たいていバイオフィルムができていて、そこがレジオネラの棲家になっているんです。
 
Q: 山の中に自然に湧いている温泉に行くと、藻がいっぱいとか、ぬるぬるしている所などがありますが?
A: あれも、バイオフィルムです。
バイオフィルムができるというのは、悪いことだけではありません。川の石などもぬるぬるしていますが、そこには微生物が住んでいて、その微生物が川を浄化しているという良い側面もあるんです。
バイオフィルムは私たちの内側にもあります。歯の内側など、よく磨けない場所にもバイオフィルムができるんです。
 
Q: バイオフィルムに入り込んだレジオネラは、消毒してもなかなか死なないと聞いたことがありますが?
A: バイオフィルムというのはある程度の厚さがあるので、レジオネラは、その中に上手くくっついて増えています。その表面をいくら処理しても、中にいるレジオネラまで届きにくいんです。
 
Q: 先ほど、レジオネラは土壌の中にいるというお話がありましたが、なぜそれが温泉の中に住みつくのでしょうか?
A: レジオネラは、もともと土壌細菌といわれていますが、日本の土壌のどこにいるのかという細かなデータはなかったので、調べてみました。学生に土を集めてもらって、北海道から沖縄までの土を調べました。分布図を作ったところ、出ない県、出る県、いろいろではありましたが、結局「日本全国、どこからでも出る」ことがわかりました。特別な土ではなく、道ばたの土、畑の土など、ごく身近な土から菌が出ます。
では、「それがなぜお風呂なの?」ということですが、まだ、きちんとした証明ができていません。人為的に土を攪拌するという作業があったりすると、レジオネラが風に乗って、飛ぶことがわかっています。「土ぼこりの中にいる」ということです。ある先生が調べたところでは、レジオネラは30mくらい風に乗って飛ぶそうです。
そして、レジオネラが増えるためには一定の温度が必要です。お風呂や温泉は、レジオネラにとってはよい環境だということがいえるでしょう。
 

レジオネラは弱みにつけこむ「日和見感染」
 
Q: 感染の経路は?
A: レジオネラの感染経路は、空気なんです。特に目に見えない小さな水滴、いわゆる エアロゾルがレジオネラに汚染されていると、これを吸い込んで「発症」してしまう。つまり病気が起こることになります。食べるもの、飲むものであれば、選択できますが、空気だけはそうはいきません。また、空気はどこにでも移動してしまうし、それを吸わなければ生きていけない。それが一番厄介なんです。
 
Q: 感染するとどうなるのでしょう?
A: まずお話しておきたいのは、「感染」ということと「発症」ということは違うということです。
「感染」するということは、ある微生物が私たちにくっつく、または体の中に入るという現象を指します。しかし「感染」した後、体調に変化がない場合は「発症」に至らないということなんです。「お腹が痛い」とか「頭が痛い」とか、普段の体調と違う状態になることが、「発症」なんです。
微生物が体の中に入っても、それを防御するメカニズムがありますから、「感染」しても、必ずしも「発症」するということではありません。

レジオネラは呼吸器系の細菌です。つまり、最終的には肺を冒す病原菌です。
私たちが一般的に馴染みのある細菌は、食中毒など主に消化器系の細菌なんですが、レジオネラは、食道や胃などには何の影響もありません。
 
Q: 「感染」しても「発症」しない人もいるんですね?
A: レジオネラに感染しても、ほとんどの方は発症しない、というのが一般的な見解です。しかし、運悪く発症する場合があります。
 
Q: レジオネラの発症のタイプとしては、2つあるということですが?
A: レジオネラにはたくさんの種類があり、どれがどのタイプというのも、なぜそうなるのかもまだ分からないのですが、発症には2つのタイプがあります。
一つは「ポンティアック熱型」と言って、夏風邪のように熱が出るタイプ。熱があるけど、がんばって仕事ができてしまうようなものです。
もうひとつが「肺炎型」というもので、いわゆる肺炎になってしまうものです。肺炎を起こす原因はレジオネラだけではないので、診断が難しいところです。
 
Q: 「肺炎型」の場合は、死に至るケースがあるようですね。
A: 肺炎型は有効な抗生剤療法があります。2〜10日、平均4〜5日の潜伏期を経て発症し、死亡例は発症から7日以内が多いようです。気づくのが遅いと致死率は60〜 70%にもなります。間に合えばおおよそ10〜20%の致死率です。
同じ100人が感染したとしても、どのくらいが発症するか、どちらのタイプで発症するかというのは、整理がついていません。ほとんどの人は発症しませんが、時に発症してしまうというものです。しかし、発症しやすい人というのが、なんとなく見えてくるんです。
 
Q: 発症しやすいのは、どんなタイプの人なんでしょう?
A: 一般的に「元気な人」はレジオネラに感染しても発症しないといわれています。その程度の病原性しかないということです。それを一般には、「日和見感染」と呼びます。日和見(ひよりみ)というのはいい加減なところがあって、菌を吸った側の要因によって、発症したり発症しなかったりします。いわゆる「免疫力」による、ということになりますね。
性差でみると、男性の方がリスクが高い、嗜好で見ると酒飲みの方がリスクが高い、その上、喫煙が加わると、もっとリスクが高いという傾向があります。
 
Q: データをみても50代以上の男性が多いですね。(→グラフ)
これを見ると、50過ぎて温泉行ったら危ないぞ…という感じになってしまいますが、年齢だけの問題ではないのですよね?
A: はい。年齢だけでなく、トータルの問題です。
 
Q: 小さなお子さんの場合は?
A: やはり、お子さんは免疫力が低いのでリスクが高くなります。
 
Q: ある資料には「レジオネラは、主に呼吸器から感染するといわれるが、創傷感染(傷口からの感染)と思われる例もある」と書かれてました。本当でしょうか?
A: あまり例はないと思います。傷口から体内に入るというのは、レジオネラに限らずどんな微生物でもありえるのですが、それは敗血症という症状になり、重症になります。
絶対ないとはいえませんが、まれな例と思われます。
 
Q: もし温泉に行って3日目くらいして熱が出たら、レジオネラにかかったと考えたほうがいいでしょうか?
A: 可能性としては、考えてください。病院で温泉に行ったことを申告することで、臨床的な手助けになりますので、よいと思います。
 

レジオネラ事故の背景と検出状況
 
Q: レジオネラの被害が増えた原因として、温泉業界を取り巻く状況もあると思いますが、どうお考えですか?
A: いろいろな考えがあると思いますが、一番の原因は、人間のエゴに尽きると思います。
私たちは、社会的な生活水準が高くなったこともありますが、人の勝手だけで、いろいろなものを造りすぎています。よりよい生活を求めすぎて、熱ければ涼しくしよう、こういうものが便利だ、と。お風呂にしても、いつでも入れるお風呂にしよう、など。それがたまたま、レジオネラという微生物にも住みやすい環境を作りあげていると考えています。

温泉も、その内容や規模が、本来のものを逸脱していると思います。じっと入っていてもつまらないから、ジャグジー風呂など、いろいろなものを作って人を集める。その結果、なぜかレジオネラというものが私たちに被害を与えることになっています。
銭湯のミストサウナなどは、あそこにレジオネラが浮遊していたら、すべて吸うことになってしまいます。一番怖い環境だと思うんですよ。

私たちの身近なところでレジオネラが増える環境が増えていることに加えて、レジオネラという菌についても医療界に知られることにより、レジオネラ感染という診断がくだされるため、事故の報告が増えているのだと思います。
 
Q: 湧出量が少ないのに、その量に見合わない大きな浴槽を造ってしまったときは、お湯の量が足りないから使い回す、つまり「循環式」にすることがありますね。また、自家源泉を持っていない施設が使用量に応じて温泉を購入している場合は、経費節約のために循環にすることもあります。
温泉を贅沢に使えないために循環式の浴槽が増え、それが事故につながっているようですが?
A: そうですね。それは温泉でも、一番大きな問題だと思います。
まず、温泉よりも24時間風呂の事故が先でした。そこで初めて循環式の水処理方法が問題視されることになりました。それでは循環式というものを見直そうということになったときに、銭湯や温泉にも問題がある、となってきました。

資源の有効利用という観点では、循環式というのは良い仕組みです。温泉も限られた資源なので、それに見合わない数の施設ができて、とにかく人を集めたいと大型化した施設では、循環せざるを得ないという状況があります。

循環式浴槽では、一度汚れた水を循環させて元にもどしますが、そのときに、「ろ過」ということをしなくてはなりません。 (→解説)
ろ過の仕組みのポイントは、「ろ過器」というものです。ろ過することによって、まず大きなゴミを取り除きます。
もう一つの大きな働きは、ろ過器内の微生物によって浴槽水の汚濁物質を分解させることです。ろ過機の中は、バイオフィルムの塊なんです。先ほどお話した通り、レジオネラは、バイオフィルムの中で増えてしまうので、その中で増殖するということになります。
 
Q: お湯が豊富に湧くところでも、循環式になってしまうことがあります。なぜかというと温泉の枯渇防止や地盤沈下などの防止のため、一日に何トンまでしか使ってはいけないという規制 (→解説)があるので、使いたくても使えないという事情があるようです。
行政によってお湯の利用量を制限されているところもありますね?
A: 地下水も温泉も、行政的な規制のかかっているところがありますので、そういうところは循環で使うということになりますね。
 

源泉かけ流しにもレジオネラ!?
 
Q: 新しくボーリングした温泉はアルカリ性泉が多いように思いますが、レジオネラ事故は、その泉質とも関係があるのでしょうか?
A: 温泉の泉質によって、塩素の殺菌効果が大きく異なります。
たとえば、アルカリ性泉は塩素が効きにくいので、通常の投入量だと殺菌効果が低くなってしまいます。(→解説)
また、pH5.0以下の酸性の温泉水では、レジオネラは棲息しないと言われていますが、pH5.0の温泉水でも検出された報告はあります。
 
Q: 衛生面や管理面が行き届かない施設にレジオネラ事故が多いようですね。
A: 現場では、レジオネラについては「管理されていない」というのが現状だと思います。施設を作ったら作りっぱなし、うまく営業できていればそれでいい、という所も少なくありません。
レジオネラはさておき、一般に「衛生的な管理」ということが普及していないというのが実状だと思います。現場でどのようなことをすればよいのかが、浸透していないのです。レジオネラについても、啓蒙していく必要があります。
 
Q: 厚生労働省としては、レジオネラをいくつ以内に抑えなさいという基準値を持っているのでしょうか?
A: 基準値というのは「ここまでなら安全」という保証をするものですが、どこまでなら大丈夫かという線引きが難しいのです。
食中毒菌は同じ菌を100人が食べれば、ほぼ同じように下痢をするんですが、レジオネラは違います。
しかし現場で管理するとなると、一定の基準は必要となります。その基準を誰が出して、誰が安全を保証するのか、という、難しい論議となったわけです。「絶対安全か?」といわれると、どんどん基準を厳しくせざるを得ません。
結局、基準となったのが、「100mLに10個未満」。なぜこの数字になったかというと、これが、現在の検出技術の限界なんです。「調べたら出ませんでした」(不検出)というレベルが基準となったわけです。
ところが現場の声はすごい反響で、現場で10個というコントロールはできないという反対意見が沢山ありました。それでも現在は、目標値としてでも100mLに10個未満というのが基準になっています。
 
Q: 厚生労働省が、循環式の施設を中心に調査したデータを発表しましたが、17%の入浴施設からレジオネラが検出されました。(→資料:レジオネラ菌検出・施設管理の状況)
「安全な温泉 危険な温泉」(中澤克之氏著)という本には「私の経験では約70%以上の温泉からレジオネラ菌が検出されました」書かれています。実際、そんなに多いのでしょうか?
A: 70%かどうかはわかりませんが、レジオネラは温泉にも住んでいるんだな、という程度にはいるものです。
 
Q: 長野県ではレジオネラが検出された施設名まで公表していました。その中に掛け流しの施設も3ヶ所入っていてショックを受けたのですが、掛け流しの温泉でもレジオネラは出るのでしょうか?
A: はい、出ます。出てあたりまえです。
検出率としては、循環と比べて桁違いに低いとは思いますが、掛け流しでも出ることはあると思います。
なぜかというと、レジオネラは、どこにでもいるんです。
逆に言うと、私たちは、いつでもレジオネラと触れている、もともといるものなんだ、と考えたほうがいいんです。掛け流しでも循環でも、温泉と名前がつけば、レジオネラはいると思ったほうがよいと思います。
 
Q: ある旅館のご主人が、「岩の割れ目から採取した源泉にも、レジオネラは300個もいる」と言っているのですが、源泉からもレジオネラが出るものでしょうか?
A: 源泉温度にもよりますが、出ることはあると思います。
私たちは、源泉のタンクで調べますが、多くの場合、レジオネラが検出されます。まさに湧き出ているところで出る、というのはどうかと思いますが。
「いるか?いないか?」といえば、「いる」と思いますが、常にたくさんの数がいるというものではないと思います。
 

温泉の殺菌方法「塩素」の功罪
 
Q: レジオネラ事故を防ぐために「塩素」で殺菌することが多いようですが、塩素を使う理由は?
A: 現状は、塩素しかないんです。
塩素を殺菌剤として使うという歴史は長く、塩素が絶対化されています。いい例が水道水です。塩素臭がする水は殺菌されている証拠として、安心して飲めます。そのくらい信用性が高いものなんです。
しかし塩素が万能かというと、そんなことではありません。水の性質によって、塩素の効き目が違ってきます。そのような問題はありますが、塩素で処理すれば大丈夫だと思ってしまう「塩素絶対主義」とも言える過剰な塩素の神話が一般に広まってしまっているのです。
殺菌効果は確かに強いです。しかしそれは実験レベルの話で、現場とは違う話です。場所によっても違います。
また、経済的なものであること、効果が持続すること、濃度をはかることによって管理しやすい、塩素を使ってきた長い歴史があることなどが、塩素を使う理由としてあげられます。
 
Q: 塩素のデメリットは、まず「カルキくさい」ということを思い浮かびますが、他にもデメリットはありますか?
A: まず、匂いの問題が一番大きいと思います。水道水でも、塩素臭というのは避けられませんが、水道水の場合「この水は安全なんだよ」ということを表す一つの証拠となります。私は旅行に行ったときなど、塩素臭のない水は、食堂では飲みません。
ただし、いい匂いではないので、独特な匂いが嫌われます。

塩素の一つの効果として、「脱色」ということがあります。プールなどでも髪の毛が脱色されたりしますが、現場ではそこまで考えていないということがありますね。また、アトピー性皮膚炎などでは高濃度の塩素はあまり良くないようです。
もう一つは、やはり化学物質なので、温泉水の中で化学反応が起こり、私たちにとって好ましくない物質が作られる可能性があります。
 
Q: それは例えば、トリハロメタンなどですか?
A: そうですね。一つは、トリハロメタンという化学物質があって、発ガン性のある物質です。塩素とある物質(フミン酸)がくっつくと、そういったものができる可能性があります。
 
Q: 東京に多い「黒湯」や「モール泉」など、フミン酸などの有機物質が多い泉質がありますが、それと塩素が結びつくと、有害な物質ができるのでは?
A: そうですね。トリハロメタンなどが発生することが考えられます。
 
Q: では、塩素を入れている温泉に頻繁に入っていると、癌(ガン)になりますか?
A: 極論ですが、ないとはいえません。
プールでは、トリハロメタンの濃度は、かなり高いです。それがいいのか悪いのかは、論議されています。体に影響があるかどうかは濃度の問題にもなるでしょう。
 
Q: 厚生労働省の「公衆浴場における衛生等管理要領」では、遊離残留塩素を0.2から0.4ppm(→解説)で消毒するようにとなっていますね。
水道水の基準が、末端で0.1ppm以上ということから考えると、そんなに濃くないように思いますが、現場では実際どうでしょうか?
A: 現場によってまちまちです。とにかく塩素を入れておけばよいと、ものすごい濃度で入れているところもないことはないです。
 
Q: 私たちとしては、温泉の色や肌触りをありのままに楽しみたいという欲求があるのですが、塩素を入れると泉質が変わるのでしょうか?
A: 本当は、化学物質は使いたくないところです。本来の自然の泉質が変わってしまう可能性があります。
また、鉄と塩素がくっつくと、違う色が出るなどの可能性があると思います。
 

「塩素」の他に殺菌方法はないの?
 
Q: 塩素以外の「紫外線」や「オゾン」による殺菌などは、主流になる可能性はないでしょうか?
A: まだ結論は出ていません。水処理の方法としては塩素以外にたくさんありますが、現場で使えるだけのデータがないことや、コスト面での問題が残っています。
 
Q: オゾンは強力な殺菌作用があるけど持続性がない、ということで厚生労働省では、塩素を使うよう指導しているようですが?(→資料:レジオネラ属菌の主な消毒方法)
A: 循環というのは、水がぐるぐる回っているので、一部分を消毒しても、汚れている部分があるとダメですから、全体を消毒する必要があります。そうなると塩素かな、ということになってしまいますね。
 
Q: 先生のご研究の中で、「コーヒー飲料由来フェノール化合物の抗菌作用」という報告がありますが?
A: まだ現場でどうこう、というところにはなっていませんが、私見としては「合成の化学物質でレジオネラをやっつけよう」というのは、イヤなのです。もし、何らかの化学物質でレジオネラをやっつけたとしても、細菌は耐性化して、更に問題になるものが出てくる可能性があります。
 
Q: 以前、テレビや雑誌で「ネグレリア・フォーレリ」(→解説)というアメーバのことを、温泉にいて、鼻から入ると脳に到達して10日くらいで人を殺す「人喰いアメーバ」として報道していたようですね。
A: 自然界にこのようなアメーバが存在することは、レジオネラを調べていてわかったのです。ネグレリアは、レジオネラが住めるアメーバです。ネグレリアについては、まだよくわかっていないのが現状です。自然界には、このような生物がたくさんいます。
 

温泉好きの自衛手段は?
 
Q: レジオネラに対して、温泉好きの自衛手段としては、どのような温泉を選んでどのように入ればよいのか教えていただきたいのですが。
A: 非常に難しいのですが、「みなさんで考えてください」、というのが私の結論です。
温泉が原因でレジオネラという病気になる可能性はあると思いますが、それがイヤならば温泉に入らないでください、と言うしかありません。
しかし、日常生活の中でもレジオネラに触れている状況を考えると、「温泉だから危険だ」とか「安全だ」とは言い切れないんです。
 
Q: 温泉や風呂に入るときには、まず体を流して入れといわれますが、それはレジオネラを浴槽に持ち込まないという効果もありますか?
A: 私たちの体には普通、レジオネラはいませんが、くっついて運ぶ可能性はあるので、体を流すことは一定の汚染防止効果はあると思います。
実際には、レジオネラは人にくっついて浴槽水に入るよりも他の原因の方が多いと思いますが、できるだけ浴槽に持ち込まないためには、良いと思います。
その他の対策としては、「吸い込まない」ということになりますが、自衛策としては、できるだけ温泉を「飛散させない」というようなことがあります。
 
Q: 飛散というと、打たせ湯など?
A: 打たせ湯もありますね。浴槽水でかぶせ湯する場合も気をつけたほうがいいと思います。気泡を発生させる装置、たとえばジャグジーなども、十分気をつけてください。
 
Q: 温泉の楽しみとしては、「飲泉」ということもありますが、それはどうでしょうか?
A: 「飲む」ときには、ちゃんと飲んでください。
いわゆる「誤飲」ということがあります。食道に入らず、気管に入ってしまうと、問題になりますので、ゆっくり落ち着いて飲んでください。
 
Q: 温泉以外にも、レジオネラはいますね。
A: 空気から感染するので、「水がもとで、飛沫している状況」が問題になります。
レジオネラの感染源として、よく冷却塔があげられます。夏場にビルの下を歩いていると、上から水が降っていることがありますね。それは、冷却塔の飛沫です。レジオネラは温泉での問題以前には、冷却塔での繁殖が問題視されていたのです。
その他、水しぶきなど、飛沫のある場所が、すべてレジオネラの問題になる可能性のある場所です。
加湿器などもそうです。
 
Q: レジオネラはかなり広く存在するというお話はショックでしたが、それを知った上で、どのように温泉と付き合っていくかは、私たちの宿題になったと思います。
A: みなさんに言いたいのは、こと温泉に関しては、みなさん方がオピニオンリーダーになっていただきたいと思います。温泉についてよく知っているみなさんが、テレビで紹介されるような立派な施設が本当にいいのかどうか、よく考えて行動していただけたらと思います。
 
Q:

先生、今日は本当にありがとうございました。

(拍手)


日本秘湯に入る会 ホームクチコミ温泉情報トップ会員専用ルーム会則当会の概要


UPDATED/2003.4.24
掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
Copyright Nihon Hitou ni Hairukai. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.